
プロジェクトストーリー

Project Story
医療・ヘルスケア分野への
挑戦

高い技術と確かな信頼性で、人々の健康を支える
2010年代に入り、帝国通信工業が新たに参入したのが、医療・ヘルスケア分野だ。
AED(自動体外式除細動器)関連の部品を手がけることからスタートし、現在では検査のスピード化を図る製品をはじめ、健康増進に向けた予防医療、注目が集まるスリープテックへと開発・製品化の領域を拡大している。
様々な困難の中、新たな挑戦を成功へと導いたのは、帝国通信工業が培ってきた技術の融合、そして互いを信じる強固なチームワークだった。
プロジェクトメンバー紹介

H・H
営業部 営業5課
課長
経済学部経営学科卒。30年以上にわたり営業職として活躍し、家電やビデオカメラ、AV関連機器などを扱うメーカー企業を担当。現在は医療関連専任部署の課長を務める。

Y・K
開発部 要素技術開発室
主任
工学部物質工学科卒。スイッチ類の研究開発、印刷技術や加工技術の開発を経て、現在は、医療機器、ゲーム機、車載機種などの回路設計、製品立ち上げ、性能評価に携わる。

H・S
開発部 要素技術開発室
課長
理工学部応用化学科卒。医療系電極シートをはじめ、遊技台用LEDシート、フィルム抵抗体など、様々な印刷回路形成や付帯技術とその製造ラインの立ち上げを長年担っている。

T・T
開発部 製品設計室
主任
工学部機械工学科卒。AV機器関連の製品設計、車載用のプリント回路板の設計・開発、カーボン抵抗体インクの性能試験・ブラッシュアップに加え、医療系製品の設計に従事。

Y・Y
商品企画部 商品企画室
主任
理工学部電気・電子システム工学科卒。生産設備の製造・メンテナンス、AV機器関連の設計を経て、現在は医療機器用製品の技術窓口を担当。技術営業として顧客との折衝も行う。
※所属および役職は、取材当時のものです。
CHAPTER 01培った技術を新たな領域へ展開するために
2010年、営業部に新規拡販をミッションとする特販課が設置された。課長に任命されたのは、当時AV関連機器メーカーを担当する課を率いていたH・Hだった。事業の新たな柱となる製品とは何か。H・Hがまず行ったのは、帝国通信工業の要素技術の勉強を行い、どのような応用製品ができるかを想像することだった。転機が訪れたのは、2011年。展示会に足を運んだH・Hに、ひとつのアイデアが浮かぶ。それが医療・ヘルスケア分野への挑戦の第一歩となった。


H・H
展示会で目にしたのが、心電図測定で使用するディスポーザブル電極でした。当社のスクリーン印刷技術で製品化できれば、医療という新たな領域で事業を展開できるのではないか。そう考え、社内で真っ先に相談したのが、開発部のH・Sです。

H・S
相談を受け、当社が培ってきた技術でチャレンジできると確信しました。とはいえ、当時はまだ医療分野での実績はない状況です。H・Hが交渉を重ね、ようやく受注したのが、AEDに使われる部品でした。

H・H
医療系企業に初めてコンタクトを取ったときには「必要ありません」と電話を切られてしまったこともあります。それでも根気強く営業活動を続けて、成約にこぎつけた。2014年12月には製品化し、最初の納品を行いました。

H・S
製品化までには様々な壁がありました。商習慣も違いますし、専門用語も勉強しなくてはいけない。受注したのはAEDの検査用のシートですが、苦労したのは肌に貼り付ける部分のゲル状の粘液と電極の相性の検証です。電極部分の材料はカーボンですが、様々なカーボンを片っ端から印刷して試したり、経験豊富な先輩たちのアドバイスをもらったりしながら、解決策を見つけることができました。こうした壁を乗り越え、製品化にこぎつけたときには大きな達成感がありましたね。


H・H
AED部品の受注後もディスポーザブル電極の提案を継続し、2016年に受注することができました。H・Sをはじめとする開発部の開発力に加え、製造現場の技術管理も信頼に値するとお客様に評価いただいた結果だと自負しています。

Y・Y
私が医療・ヘルスケア分野のプロジェクトに参加したのは、AED部品の製品化の直前。ちょうどディスポーザブル電極を受注した時期と重なります。技術営業である私の役割は、お客様と開発部の架け橋となること。そして、見積りを行うことも業務のひとつです。ディスポーザブル電極は、お客様が競合他社から当社へ取引を切り替えた、という経緯がありました。形状や材料を踏襲しながらも、コストを下げつつ質の高い製品を作らなくてはなりません。初めて使用する材料もあり、メーカーさんに問い合わせて情報を集めました。

Y・Y
コスト面でも厳しい課題がありました。量産体制を作りながらのコストダウンは難しい。社内の様々な部署と調整しながら、適正な価格設定を実現できました。

H・H
お客様から当社の製品を信頼いただき、その後は心電、筋電に関するディスポーザブル電極も受注し、製品化しています。今ではこの分野の柱のひとつとなっています。

CHAPTER 02「睡眠」にアプローチする製品づくりに挑む
医療分野での実績を重ねていくなか、2017年に開催された展示会で、医療分野の製品として初めてディスポーザブル電極を出展する。これに着目したのが、睡眠を研究する大学の機関だった。現在では大学発のベンチャーとしてIT技術を活用した睡眠サポートを展開している企業で、帝国通信工業がスリープテック事業に携わるきっかけとなった顧客である。ここから脳波測定のためのディスポーザブル電極の開発・製品化への挑戦が始まった。


H・H
展示会では「生体向けのディスポーザブル電極」として、ノイズ干渉を抑えたり、耐性を強めたりなど、当社ならではの工夫を凝らした製品であることをアピールしました。そうした点も着目いただいた理由ではないでしょうか。睡眠中の脳波測定に用いる機器の開発に、当社のディスポーザブル電極を活用したいと、声をかけていただいたんです。

Y・Y
それまで取引をしていた企業様では、心電に関する2つの製品、筋電に関する1つの製品を手がけていました。また、他のお客様に脳波を測定するディスポーザブル電極も提供していました。いろいろな電極に対応したノウハウを活かせると感じましたね。

H・S
お客様が求めていたのは、ウェアラブルデバイスに使用するディスポーザブル電極でした。そのデバイスに対応しながら、寝ているときに邪魔にならない形状のシートを作るプロセスは苦労が多かったと記憶しています。研究・開発が進むごとにデバイスの形状も変化していたんです。


T・T
設計担当として、お客様の要求に応える設計を行うことはもちろん、試作と性能確認を行い、工場での量産化に関する問題を解決することが私のミッションです。導電性ゲル、不織布テープなど当社で初めて使う部品も多々ありました。

Y・K
私は2019年から医療・ヘルスケア分野の回路設計や性能評価に携わっています。それまで家電やAV関連機器の回路設計を担当していた私にとって、医療機器の性能評価のハードルの高さに戸惑いもありましたね。性能を満たす根拠が厳密に定められていて、医療機器に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格「ISO13485」に対応できるよう、知識を吸収することに努めました。

Y・Y
今回のプロジェクトでは、生体電極の完全状態まで仕上げ、アルミパッケージで封入するまでを手がける必要がありました。コストを抑えながら、高い性能を発揮する。それも課題のひとつでした。当社のノウハウと工場設備を活かして、それらの課題をどう解決するか。頭を悩ませる日々が続きましたね。

T・T
ただ性能をアップさせるだけではなく、ユーザビリティを担保したいという思いもありました。それをうまく両立させるためにはどのような設計に落とし込むのか。それが設計面で一番の課題でした。

CHAPTER 03顧客のニーズに応える技術力と結束力
様々な困難に直面しながらも、睡眠時の脳波測定を行うディスポーザブル電極は、2023年8月に無事量産化を迎えた。帝国通信工業の技術を駆使し、携わる社員たちが力を合わせて一つひとつの課題を解決していったことが、成功の要因と言えるだろう。彼らはいかにして課題を解決していったのか。


H・S
帝国通信工業はこれまで培ってきた様々な分野での技術を持っています。医療以外の分野を知っているからこそ、多角的な視点からアプローチすることができる。例えば、スクリーン印刷と成型技術など他の作業を組み合わせた提案もできます。そうした強みを活かした開発・設計・試作を繰り返すことで、お客様のニーズに合った形状のシート作成を実現できました。

T・T
設計後に試作をしたら、性能試験を行い、ブラッシュアップを重ねていきます。「習うより慣れろ、モノをつくって評価すればいい」の精神で試行錯誤を重ねて、ユーザビリティと性能を両立した製品を作り上げたことが自信につながりましたね。

Y・Y
このプロジェクトでは材料選定から始めています。分からないことは恥を承知でお客様に確認したり、材料メーカーに問い合わせたりと積極的に行動することを心掛けました。当社の強みは、素材研究から設計、設備構築から量産工程まで一気通貫で行えることです。この取り組みができるところは数少ない。一気通貫だからこそ、技術や設備の長所を生かしたオリジナリティも加味できる。そこを評価いただくことも多いですね。


Y・K
試作時になかった問題が量産する際に表出したことがありました。現場スタッフにヒアリングし、試作時との差異や作業現場の確認を行い、製造現場と協力して対応・改善を行いました。医療機器ならではの厳しい規格に則った数種類の製品の立ち上げに取り組むなか、ある程度の課題、改善点が見えてきたことは大きな収穫です。

T・T
量産時の課題をクリアし、現在は安定した供給ができています。社員が一丸となって課題に取り組む。この結束力が心強いと感じますね。

H・H
問題が発生した時の対応力も当社が評価されていることのひとつです。出荷した製品の一部に不具合があった際、すぐに調査を行い、中3日で対策に関する報告書を提出したことがあります。「この日数で完璧な対策報告書を提出してくれた会社さんは初めてです」というお言葉をいただきました。この対応でより信頼が深まり、次の発注にもつながりました。

CHAPTER 04未来につながる挑戦を続けていく
帝国通信工業の医療・ヘルスケア分野での様々な取り組みが認知され、その製品に対する信頼性も高まっている。また、帝国通信工業自身も新たなビジネスチャンスの開拓のため、電極用インク、電気化学センサなどの研究開発に力を入れている。メンバーたちの未来に向けた思いとは?


H・H
最近ではスタートアップ企業、国内医療メーカーなどのお客様からお問い合わせをいただく機会も増えてきました。これからは海外の医療系企業にも目を向け、国内にとどまらない展開を行う時期にきていると思います。

T・T
これまで帝国通信工業が培ったノウハウはもちろん、様々な検証を手がけてきた経験が、次の設計へのヒントになっていると感じます。医療分野の知識をさらに深め、お客様のニーズに応える製品を生み出したいです。

Y・K
これからは製品の改善とともに、生産品質の向上、コストダウンを考慮する段階だと思います。いろいろな分野の製品を手がける当社だからこそ、提供できる価値があります。その価値を高めることにも力を入れたいですね。

Y・Y
新たな生体電極に関するお話もいただき、検討を進めているところです。「帝通品を使いたい」という嬉しいお言葉も多くいただいています。一気通貫という強みを活かして、さらなる製品展開を目指したいです。

H・S
より幅広い分野で電極シートを活用できるよう、新規顧客への拡販を狙いたいと考えています。リアルタイムで検査結果がわかる「臨床現場即時検査(POCT)」の検査用電極の開発にも挑戦したいですね。


Y・K
アプリを活用して、リアルタイムで自分の健康データを入手できる。そうした製品にも携わり、健康増進や生活の質の改善に寄与したいという思いもあります。

T・T
日本人の5人に1人は睡眠に問題を抱えていると言います。そんな方々の助けになるプロジェクトに携わっていることは、誇りであり、自信にもなりますね。

Y・Y
そうですね。睡眠で悩んでいる方の改善サポートツールに貢献できることが嬉しい。注目されているスリープテックの中でさらに成長していけたらと思います。

H・S
ディスポーザブル電極を使えば、定期的にデータを収集することが可能です。それは医療現場の負担を軽減し、質の高い医療の提供を後押しすると確信しています。

H・H
一般ユーザーのお客様が直接手に取って使用する製品を送り出したことで、市場からのフィードバックを開発に反映できる体制が強まりました。これから先、技術者・開発者としてやりがいのある仕事がさらに増えると思いますよ。
